Make a Better Choice~SGLT2阻害薬のパートナー~

10月5日(火)中国・四国の糖尿病診療をされている先生方を対象に、愛媛大学総合健康センターの古川慎哉先生に座長をしていただき、北里研究所病院の山田悟先生とともにディベート講演を行いました。

SGLT2阻害薬が開始となった患者さんの次に追加する薬剤として、
メトホルミンがよいのか?それともインクレチン関連薬がよいのか?

前提として、SGLT2阻害薬の有用性が明らかになってきた昨今、次の一手となる薬剤としてメトホルミンが良いのか、それともインクレチン関連薬が良いのかをディベートにて議論するというのがこの会の趣旨でした。

※ディベートはあくまで、振り当てられた立場に立って主張を組み立てるものであり、実際の個人の意見を必ずしも反映させたものではありません。

山田悟先生は「メトホルミンを勧める立場」として、これまでに蓄積されてきた大規模観察研究やメタ解析を用いてメトホルミンの有用性について発表され、インクレチン関連薬の心不全に対する懸念についてお話がありました。

メトホルミンは古くからある薬剤だけに多くの疫学研究や観察研究があり、有益性と安全性が報告されているとても良いお薬であり、山田悟先生の発表はとてもよくまとめられていて、改めてメトホルミンが良いお薬であることを再認識できました。さすがです!

エール君
エール君

メトホルミンは約60年以上も臨床の場で使用されており、欧米のガイドラインでは今でも第一選択薬として認識されている薬剤です。

一方、私の方からは「インクレチン関連薬を勧める立場」としてお話をさせていただきました。

インクレチン関連薬にはDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の2種類がありますが、両剤とも発売後に大規模なプラセボ対象のランダム化比較試験により、心血管疾患に対する安全性が確認されている優れた糖尿病治療薬です。特に、いくつかの種類のGLP-1受容体作動薬による心血管疾患のリスク低下が明らかになっており、有効性が報告されている糖尿病治療薬です。

DPP-4阻害薬は短中期的な安全性が確立され、とても使いやすい薬剤であるため、今でも日本の糖尿病治療においては第一選択で使用されてる先生も多いのが現状です。メトホルミンは半減期が短いため、1日2~3回に分けて内服する必要があるのですが、DPP-4阻害薬は1日1回で済む薬剤やSGLT2阻害薬との配合錠もあるため、患者さんにとっては非常に服用しやすいのが特徴です。糖尿病の治療においては患者さんのアドヒアランスを守ることが重要であり、この点はDPP-4阻害薬が優れている点だと考えて良いでしょう。

皆さんはパーセプションという言葉をご存じでしょうか?

我々医療者は基本的に「患者さんのために」という気持ちで診療をしていますが、それが時に患者さんの立場に立ってみると正解とは言えない指導・治療をしてしまっていることがあります。「患者さんのために」と「患者さんの立場に立って」ということは似て非なるものです。

GLP-1受容体作動薬は、血糖改善効果はもちろんのこと、心血管疾患リスク低下、体重減少などにも期待ができる薬剤だと報告されています。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を処方する患者さん像というのは被っているところも多く、実際にその有効性からSGLT2阻害薬の次にGLP-1受容体作動薬が使用されることも増えてきています。

エール君
エール君

SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬はともにプラセボ対象ランダム化試験において心血管疾患に対する安全性+有用性が確認されているため、心血管リスクの高い患者さんではファーストチョイスで使用されるケースが増えていますね。

日本では患者さんの病態に応じて主治医がどの薬剤を使用するかを判断するのですが、米国や欧州のガイドラインでは心血管疾患のリスクが高い方への第一選択薬として勧められています。

糖尿病モデル動物にSGLT2阻害薬を投与すると、膵島にGLP-1受容体の発現が増えるという報告があります。
ということは、SGLT2阻害薬を投与した後にはGLP-1受容体作動薬、インクレチン関連薬が効きやすい状況になっているということです。このことは、インクレチン関連薬で効果が今一つであってもSGLT2阻害薬を併用することでインクレチン関連薬の効果が高まったり、あるいはSGLT2阻害薬のあとにインクレチン関連薬を併用することによって有効性が上がる可能性があることを示唆しています。

また、しばしばSGLT2阻害薬の投与後に食欲が増えてしまう患者さんも多くいます。GLP-1の薬理的な作用に食欲抑制、消化管運動抑制作用があるため、SGLT2阻害薬による食欲亢進を抑えることも期待できるかもしれません。もちろん、インクレチン関連薬は糖尿病治療薬なので、血糖改善効果以外の作用に期待しすぎることはいけないのかもしれませんが、実際にGLP-1受容体作動薬を処方されている先生が食欲や体重への影響を期待しているのも事実でしょう。

いずれにしても、糖尿病治療薬をどのような患者さんにどのタイミングで、何を期待して処方するのかが糖尿病専門医のスキルです。もちろん、患者さんの立場に立って物事を考えることも重要です。今回、私も糖尿病治療について改めて知見を深めることができ、また聴講していただいた多くの先生方の診療にも役に立ったのではないかと思っています。

エール君
エール君

糖尿病領域は日々進歩しており、常に知識をアップデートする必要がありますね。

会の案内状
金沢一平 糖尿病と骨粗しょう症専門医からの提案