八束地区臨床懇話会

2021年11月11日(木)

島根県の八束地区の先生方を対象に、伊藤医院院長の伊藤健一先生に座長を務めていただき、動脈硬化症診療についてお話しさせていただきました。

伊藤 健一 院長の独自取材記事(伊藤医院)|ドクターズ・ファイル (doctorsfile.jp)

 

脂質異常症診療を深化させる~先生、その患者スタチンだけでよいですか?~

案内状

動脈硬化性疾患を予防するために、LDLコレステロールの量と質をコントロールすることが重要です。世界的にみても、動脈硬化のリスクの高い患者さんにスタチンによるLDLコレステロール低下治療はもっとも重要であることは認知されています。

2000年代に入り、コレステロールが高いことだけではなく、『質』も大事であるということが報告されるようになり、以前には「高脂血症」と呼ばれていた病態が「脂質異常症」と呼ばれるようになりました。

しかしながら、まだまだ実臨床において脂質代謝の『質』を考慮した診療が拡充しているとは言えないのが現状ではないかと思います。

 

エール君
エール君

脂質代謝は『量』だけでなく『質』って大事ですね

 

 

今回は、スタチン治療はすでにゴールドスタンダードとなっていますが、その先のLDLやHDLの質を鑑みた診療の考え方についてお話をしました。

 

例えば、典型的に脂質の『質』が悪くなると考えられている糖尿病患者さんと非糖尿病者との間には、LDLあるいはHDLの量と心血管疾患発症との関連性に乖離があることが報告されています。

 

下の左の図を見ていただくと、実践で示されているDM(糖尿病患)のグラフと、破線で示されているNon DM(非糖尿病)のグラフの傾きはほぼ同等ですが、ギャップがあることが見て取れると思います。右の図のHDLも同様ですね。ここのギャップの部分が『質の劣化』と解釈されるわけです。

したがって、糖尿病患者さんではLDLコレステロールあるいはHDLコレステロールの値だけではなく、そこに隠された『質の劣化』が存在することを念頭に治療強化をする必要があります。

LDL-C、HDL-Cと心血管疾患発症との関連性について

 

ペマフィブラートによる脂質の『質』への影響

以前に私の患者さん達で、心血管疾患のリスクが高く、高トリグリセリド血症を伴う患者さんにペマフィブラートを用いて治療をし、その後の資質の変化を検討したことがあります。

対象は16名と少数の検討でしたが、ペマフィブラート開始前の平均トリグリセリドは233 mg/dLでありましたが、3ヶ月後には135 mg/dLまで改善を認めました。

治療前後の変化量と治療前のベースライン値(基礎値)との相関を見ると、総コレステロール(T-cho)、LDL-C、MDA-LDLの基礎値と変化量には負の相関が認められました。したがって、ペマフィブラートでトリグリセリドを下げる治療を行うと、治療前のT-cho、LDL-C、MDA-LDLが高い患者ほど、治療後に減少する傾向があることが示唆されました。

 

MDA-LDLは酸化LDL(質の悪いLDL)の一つのことですので、トリグリセリド治療により『LDLの質』が改善する可能性が示唆されます。

もちろん小数例での検討ですので、今後さらに大規模なデータ解析が必要だと考えますが、興味深いデータだと感じました。

エール君
エール君

心血管疾患は患者さんの生命予後、生活の質に大きく関わる疾患なので、リスクの高い患者さんにはきめ細かい脂質管理が求められますね。

金沢一平 糖尿病と骨粗しょう症専門医からの提案